2017年1月分 『どろネコ』
どろネコ
そのネコは、かならず体のどこかにどろをつけていました。
前足の先っぽだったり、シッポの先っぽだったり、鼻の先っぽだったり、耳の先っぽだったり。
なぜ、どろネコにどろがついているのかを知っているのは、その村の子供たちだけです。
田んぼの米を狙うネズミにちょっかいを出しているのを、学校の帰り道によく見かけていたのです。
「あいつ、また顔に泥がついてる」
「今日はあたまのてっペんにどろをつけてるぞ。米ドロボウのネズミをつかまえたのかな?」
「見て見て、今日は後ろ足にどろがついてるよ」
「気持ち悪いのかな? 足をブルブル振ってどろを落とそうとしているね」
どろネコは子供たちに何を言われようが、知らん顔でからだをペロペロと毛づくろいをはじめたり、にゃあと一声なくと、すました顔でトコトコと歩いていくのです。
イヌのおまわりさんという歌を覚えた子供たちは、どろネコは村のおまわりさんかも知れないと思うのでした。
その日もどろネコは村をウロウロして、ちょっかいを出そうとネズミやカラスをさがしていました。
すでに顔にどろがついていて、ときどきそれを振り落とそうと、プルプル足をふるわせています。
その様子を一匹のネズミが先に見つけ、急いで田んぼの近くにあった家に逃げ込んだのです。
「おや? 何だい? いまの影は?」
どろネコは見逃しませんでした。ネズミの後を追ってその家に飛び込むと、ネズミはテーブルの上にあったこの家のばあちゃんが作った料理をかじっていました。
これでは村のおまわりさんとしてだまっていられません。
「にゃあにしてる!」とばかりに
ニャアとなきながらネズミに飛び掛ると、ネズミもお食事チューと
おどろいてハネ上がると、空中でくるりとチュウ返りして、ネコパンチをかわします。
テーブルの上であばれる音を聞いたばあちゃんが奥の部屋からやって来て、部屋のすみにあったホウキをつかんで振り上げました。
ばあちゃんにはどろネコがじゃまになってネズミが見えていないようです。
「この、ドロボウネコめ!」
おどろいたネズミが逃げると、それを追い抜いてどろネコが逃げます。
追いかけるばあちゃんの目には、どろネコしか見えていないようでした。
「えい!」
ホウキのぼうが、どろネコのシッポをかすめて、勢いよく地面に叩きつけられます。
ばあちゃんはどろネコを追いかけながら、もう一度ホウキを振り上げました。
「まてい。この、ドロボウネコ」
ものすごい勢いで逃げながら、どろネコは思うのです。
『どろぼうネコ、どろぼうネコって、ぼうを持っているのはそっちじゃないか!』ってね。
いつもはばあちゃんの田んぼを荒らしに来るネズミやカラスを追い払っているのに、今日はばあちゃんに追い払われているどろネコ。
でも、ばあちゃんが元気そうだからいいや。と思うのでした。
おしまい